2018年3月22日木曜日

話題の『インヒューマンズ』本日発売!



読者の皆様、こんにちは!

今回は、本日22日(木)発売(地域によって若干の誤差が生じます)の邦訳アメコミ『インヒューマンズ』を紹介します。


現在、無料BSチャンネルDlifeやHuluで同名ドラマが放送中ですので、 “インヒューマンズ”の認知度は以前よりも格段に上がりました。ちなみに、今週24日(土)には第3話が放送されます。物語はまだ始まったばかりですので、いまからでも間に合います! 海外ドラマ版と原作コミック版の違いを吟味してみてはいかがでしょうか?



原作コミック『インヒューマンズ』の魅力

本書は、全12話(+ラフスケッチ、作者インタビュー、スクリプト収録)の読み切り長編コミックです。ライターのポール・ジェンキンスが作中でキャラクター自身や世界観の説明を上手に盛り込んでいるので、予備知識が一切ない人でも充分楽しめるのが本書の魅力の一つです。また、物語がこの一冊で完結しているので、話が途中で終わってしまう“モヤモヤ感”もありませんし、 “作品”として堪能できます。正直申しまして、アイズナー賞受賞作品だけあって、この『インヒューマンズ』はかなり面白いです。

イギリス出身のポール・ジェンキンスが担当したShoPro Booksの邦訳アメコミといえば、いまでは書店さんで入手困難となってしまった『X-MEN ウルヴァリン:オリジン』や『ダークナイト:姿なき恐怖(THE NEW 52!)』が挙げられます。本書は304ページと、最近の邦訳アメコミのなかでは比較的ボリュームのある作品ですが、とにかく物語に引き込まれてしまうので、あっという間に読み終えてしまいます。

没頭できる理由は、物語の面白さだけではなく、あのアレックス・ロス(本書の序文を書いています)も認めるジェイ・リーが描く美麗アートもその一つです。もちろん、本書のカバーアートもジェイ・リーによるものなので、その素晴らしさが表紙だけでもわかると思います。ジェイ・リーの邦訳コミックといえば、『バットマン/スーパーマン:クロスワールド(THE NEW 52!)』がありましたね。

▲ジェイ・リーが描く1ページ目。
ギリシア神話のイーカロスのよう


20年後も輝くマーベル・ナイツ作品

本書を読んだ人には絶対共感してもらえると思いますが、まったく古さを感じさせません。本書は、ちょうど20年前の1998年に発表された第2(Vol.2)シリーズの作品で、1999年のアイズナー賞(アメリカの権威ある漫画賞)のベスト・ニューシリーズ賞を獲得しています。

1990年代後半といえば、マーベルにとっては、経営が悪化した苦難の時代でした。事業は継続していましたが、倒産というニュースが舞い込んできたのもこの時期でしたね。1998年、苦境に立たされながらも、マーベルはデアデビル、ブラックパンサー、パニッシャー、そしてインヒューマンズ(ブラックボルト)と、しばらく脚光を浴びてこなかった少し陰のあるヒーローたちに焦点を当てた “マーベル・ナイツ”という大人向けインプリント(レーベル)を立ち上げました。おそらく、事業的な問題もあり、膨大なコンテンツを保有するマーベルの利点を活用すべく、眠っているキャラクターの掘り起こしを図ったのではないかと思います。

結果的に、その“マーベル・ナイツ”で再び日の目を見たそれらのキャラクターは、現在ではすべて映像化され、人気を博しています。そういった意味でも“マーベル・ナイツ”は成功したのではないでしょうか。本書も“マーベル・ナイツ”レーベルで刊行されていた作品の一つになりますので、物語も重厚で読み応え充分となっております。


インヒューマンズとは“超人類“

形容詞“Inhuman”は“冷酷な”とか“超人的な”という意味ですので、名前のとおり、彼らは“超人類”の戦闘種族です。地球の古代文明を引き継ぐ超人類ということだったのですが、実は異星人に人工的に作られた生物が起源だったそうです。過去の話については作中でも触れられていますので、ぜひ本書でご確認ください。

超人類インヒューマンたちは、成人を迎える者に秘められた能力を開花させるテリジェン・ミストを浴びさせる儀式を行います。その者が持つ遺伝子によって開花する能力が異なり、それが個性となっていきます。見事、ミストを浴びてスーパーパワーを獲得することができれば、インヒューマンとしての活躍が期待されるのですが、テリジェン・ミストに不適合だった者は市民権を剥奪され、奴隷階級的種族アルファ・プリミティブ(実はこちらも元をたどればインヒューマンの遺伝学者に人工的に作られた種族)となり、地下都市で強制労働を強いられてしまいます。

能力を開花させたインヒューマンズと彼らを労働で支えるアルファ・プリミティブ、また、そのインヒューマンズのなかでも能力の優劣が明確となり、いままで友だち同士だった若者たちの間に軋轢が生まれます。ライターのポール・ジェンキンスはこの物語を書くにあたり、「人間の本質は何かとじっくり考えた」そうです。あくまで超人たちの話ですが、我々の世界にも通じるリアリティを感じる作品です。


インヒューマンズのロイヤルファミリー

インヒューマンたちは大都市アティランを拠点にしていますが、その種族の頂点に立つ王がブラックボルトです。ブラックボルトの能力は“声”です。囁くだけで山を砕いてしまうほどの破壊力があります。ですので、日常は声を発することはありません。はたして、今回はその“声”を使うのか否か……。

彼の妻であり、インヒューマンズの女王でもあるのが、長い髪の毛を自在に操るメデューサ。その妹で地水風火の元素を操るクリスタル。ちなみに、クリスタルはX-MENの宿敵マグニートーの実の息子で、スカーレットウィッチの双子の弟クイックシルバーと結婚していた時期がありました。彼との間には一人娘ルナがおり、すでに破局しておりますが、インヒューマンズ側で育てられています。

その他にも大地を揺るがす脚力を持つゴーゴン、半魚人のトライトン、その弟で相手の弱点を感知する能力を持つカルナク、テレポート能力を持つ犬ロックジョー。そして、ブラックボルトの実弟にして、天才的な頭脳と精神を操る能力を併せ持つマクシマス。彼は、幾度となく兄ブラックボルトと争っており、幽閉されています。このマクシマスの策略が今回の物語の軸になります。
▲玉座に座る王ブラックボルトと妻メデューサ


王座を争う兄弟対決?

この物語は、ブラックボルトとマクシマスの兄弟対決が発端ではあるのですが、高潔なブラックボルトに対して一方的にマクシマスが喧嘩を売っている図式になっています。マクシマスは、アティランの内外からインヒューマンズを攻め立てるよう策略を企てます。外からは人類にアティランを総攻撃させ、中からはアルファ・プリミティブのクーデターを起こさせるといった用意周到な天才的な計画を実行します。(声を発すると大変なことになるので当然ですが)無口な王ブラックボルトは、身内にも相談できず、この危機に対する決断を迫られます。応戦するのか、しないのか。無敵のブラックボルトであれば、人類の攻撃やクーデターなど一瞬で吹き飛ばすこともできます。ただし、それを行うと甚大な被害が伴ってしまう。頂点に立つ者は孤独だとよく言われますが、ブラックボルトも例に漏れず孤独です。孤独のなかで辿りついた決断とは……そして、ブラックボルトの一番の理解者であるメデューサや一族の参謀的な役割を担うカルナクがとった行動とは……ぜひ、本書にてじっくりと味わってください。

本書を読み終えたとき、ポール・ジェンキンスがこの物語を書く前に考えていた「人間の本質」について、我々読者もきっと考えるでしょう。うまく伝えることはできないのですが、カート・ビュシークとアレックス・ロスによる名作『マーベルズ』を読んだときと似たような読後感がありました。双方とも芸術的なアートという点では共通しているかもしれませんが、それだけではなく色々と考えさせられる良いアメコミでした。読み終えたときに感じることは百人百様かもしれませんが、ぜひ皆さんも本書から何かを感じてみてください。

とにかく、「アメコミ魂」の読者さんにお薦めできる一冊です。

▲本書のトビラにもなっている印象的なシーン。
なぜ王がロックジョーに寄り添っているのか……


次回の更新は、新刊『ジャスティス・リーグ VS. スーサイド・スクワッド』『スター・ウォーズ:ハン・ソロ』が発売する4月4日頃となります。お楽しみに!

(文責:乙間萌生)


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