2015年6月22日月曜日

祝トニー賞受賞!『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇~』

こんにちは!

先日、アメリカ演劇界において最も権威ある賞、第69回「トニー賞」の受賞作品が発表されました。俳優の渡辺謙さんが、ミュージカル『王様と私』で主演男優賞にノミネートされたことで日本でも話題になりましたが、そうした強豪をおさえ、今年度、最多5部門を受賞したのがミュージカル『ファン・ホーム』です。
*―最優秀作品賞、最優秀ミュージカル脚本賞、最優秀楽曲賞、最優秀主演男優賞、最優秀演出賞

オフ・ブロードウェイで上演され、何度も公演期間を延長されるほどの大評判をとったこのミュージカル、実は2006年にアメリカで刊行されたグラフィック・ノベルを原作とした作品で、小社よりすでに日本語版が発売されているのです!

そこで、今回はこの原作コミック『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇~』をご紹介します。
『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇~』
アリソン・ベクダル[著]
椎名ゆかり[訳]
定価:本体2,500円+税
●発売中(2016年現在市場在庫のみ)●

ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇~』は、2006年にホートン・ミフリン社(Houghton Mifflin)から刊行された作品で、発売後2週間にわたってニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに入り、「タイム」や「ヴィレッジ・ヴォイス」など全米の多くのメディアがその年のベストブックと絶賛しました。

2007年には、アメリカで最も権威ある漫画賞の一つ、アイズナー賞の最優秀ノンフィクション賞を受賞。日本でも2011年に日本語版が刊行されると、第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。

本作は、著者アリソン・ベクダルとその家族、とりわけ父親との関係に焦点をあてて綴った自伝的作品です。

ペンシルベニア州の片田舎で葬儀屋を営む家庭の長女として育てられたアリソン。英語教師として働きながら自らの耽美的な世界にひきこもる父親とは、互いに関心を持たないまま、冷淡な関係が続いていました。やがて大学生になり、自分がレズビアンであることを自覚しカミングアウトしたアリソンは、父もまた、自分と同じ同性愛者であったことを知ります。

が、その事実を知って数週間後のある日、自殺とも言えるような事故によって、父が突然の死を遂げます。

父はなぜ、死んだのか。いったい私は、父の何を知っていたと言えるのか――?

“父の不在は過去にさかのぼって反響し、
わたしと父がいたすべての時間に戻ってこだました”

アリソンは記憶を過去へとさかのぼり、幼少期から現在に至るまでをたどりながら、「ついにわかりあうことのなかった」父と自分との関係を解き明かしていきます。

本作の驚くべき点は、その父との関係を解き明かしていく過程において、ジェイムズ・ジョイス『若い芸術家の肖像』『ユリシーズ』、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』、アルベール・カミュの『幸福な死』『シーシュポスの神話』、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビーなどの膨大な文学作品を引用しながら、それが語られているという点にあります。

それにより、決してペシミスティックになることなく、一見、淡々と父との思い出が語られていくのですが、同じセクシャルマイノリティとして、文学を愛する者として、共感を覚えながらもすれちがい続けた父と娘が、文学を通じて、ほんの一時かすかな結びつきを得るシーンは、なんともせつなく、胸に迫るものがあります。

いわゆるLGBTものと言われるジャンルに属する作品かもしれませんが、これは父と娘の物語であり、まさしくタイトルにある通り、「ある家族の悲喜劇」を描いた、万人が共感できる傑作です。

また、本作では、「超有名作品にもかかわらず読み通すことができた人は数少ない文学作品」の二大巨頭『ユリシーズ』と『失われた時を求めて』が重要な役割を果たしているのですが、なんと日本語版には巻末に詳細な解説写真参照↓)がついており、これを読めばバッチリ!という親切設計になっておりますので、「海外文学ってハードルが高くてちょっとね…」という方にも全力でおすすめします。もちろん文学愛好者にとっては、楽しめること間違いなしです!

▲これ以上ないほど詳しい『ファン・ホーム』巻末解説
在庫は店頭分のみで、非常に入手しづらい状況になっているのが心苦しいところですが、この機会にぜひ、『ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇~』をお手にとっていただければと思います。

ちなみに、本作の続編としてアリソンが母親との関係を描いた『Are You My Mother?』という作品が出版されており、こちらも本国でベストセラーとなっています。
Are You My Mother?』(未邦訳)
アリソン・ベクダル[著]

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(文責:澤田美里)