2014年2月24日月曜日

全世界が称賛したグラフィック・ノベル『デイトリッパー』

皆さん、こんにちは!

昨年、アメコミ関連で大きな話題となったのが、映画『マン・オブ・スティール』の続編が「バットマン vs スーパーマン(仮)」だと発表されたことでしょう。アメコミ界を代表する超人のスーパーマンに対して、普通の人間であるバットマンがどのように戦うのか? 期待が高まりますね!

この対決が気になる方は、ぜひ小社から発売中の『JLA:バベルの塔』をご覧ください。バットマンのおそろしさが伝わるはずです。



▲『デイトリッパー』
ファビオ・ムーン/ガブリエル・バー[著]
定価:2600円+税
●小社より2014年2月26日頃発売●
さて、バットマンと同じDCコミックス(ただし「VERTIGOレーベル」ですが)から原書が発売された本書『デイトリッパー』の主人公であるブラスも、特殊な能力を持たない普通の人間です。

とはいえ、バットマンのように常人が達する極限の域まで鍛錬を積んで悪と戦うわけでも、『キック・アス』のようにまずは形からヒーローを目指そうとするわけでもありません。

本書にはヒーローもヴィランも登場しません。彼らは私たちと同じような日常の世界を生きており、本書は普通の一般人である主人公ブラスの人生を描いた作品なのです。

著者はファビオ・ムーンとガブリエル・バー。1976年にブラジルのサンパウロで生まれた一卵性双生児の兄弟です。ガブリエル・バーは、元マイ・ケミカル・ロマンスのヴォーカリストであるジェラルド・ウェイ脚本の『アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~』でアートを手掛けていますので、ご存じの方が多いかもしれませんね。

1993年にまずは自費出版からコミック・アーティストとしての活動を始めた二人は、1999年にアメリカでのデビューを果たします。他作家との共作も手掛けてキャリアを重ねてきた二人は、2006年に刊行した兄弟共作による『De: TALES』という作品が全米図書館協会の選ぶ「ベスト・グラフィック・ノベル10冊」に選定されたり、コミック界のアカデミー賞ともいえるアイズナー賞にノミネートされるなどして、コミック作家としての評価を高めました。

そして、2010年にリーフが刊行され、2011年にTPBにまとめられた本作『デイトリッパー』は、念願のアイズナー賞を受賞。そして、同じく権威あるコミック賞であるハーヴェイ賞も受賞し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーで1位を獲得するなど、大成功をおさめます。涙ながらに行われたアイズナー賞の授賞式の様子は本書の翻訳を担当していただいた椎名ゆかりさんによる「訳者あとがき」に記されていますので、ぜひご覧ください。

上記のような経緯を持つ作品ですので、“人気キャラクターが繰り広げる派手なバトル”のようなエンターテインメントを求められている方には敬遠されてしまうかもしれません。

しかし、どうか一歩踏みとどまってください。

決して派手ではありませんが、本書も間違いなくエンターテインメント作品なのです。

本書は10章で構成されています。そして最初に読み始めた1章の終わりで、主人公は非業の死を迎えます。続く2章では、また同じ主人公の人生の中での別のシーンが描かれ、そしてまた主人公は死を迎えます。

そう本書では、章ごとに、それぞれのシチュエーションでの“主人公の死”が描かれていることにだんだんと気づかされます。第3章が始まり、物語が大きく動き出そうとする瞬間の衝撃的な死。そして、第4章の新たなシーンの始まり……。ここまで読み進めた時、読者は作品の大いなるエンターテインメントの世界に閉じ込められてしまっていることに気づくでしょう。

静かに物語が進んでいくように思わせながら、実は読者の感情の大きなうねりを生じさせ、現実にそくした世界を描いているようでいて、私たちの片足はいつの間にか幻想の世界に踏み入れているのです。その根底には、著者の二人のルーツである南米で花開いた幻想文学の魔術的リアリズムが流れているのかもしれません。

5章、6章と読み進める中で、読者は作品が醸しだす世界に身を任せるしかありません。そしてたどり着いたラストのページをめくった時、きっと「人生に隠された偉大な秘密」が伝わってきます。

少しでも興味をお持ちになったとしたら、ぜひ本書をお手に取ってご覧ください。アメコミの、というよりもコミックの奥深さを思う存分に味わうことができるはずです。


(文責:佐藤学)

2014年2月17日月曜日

映画によせて……『マイティ・ソー:アスガルドの伝説』

みなさん、こんにちは!

現在公開中の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』はご覧になりましたか?

前作『マイティ・ソー』で意外なハマリ役だったクリス・ヘムズワースの雷神ソーも、もちろん引き続き好演していますが、今回の注目キャラはなんといってもトム・ヒドルストンによる邪神ロキ! 登場場面では必ずと言っていいほど印象的な演技を見せ、主役を食う勢いで大活躍しています。“マーベル・シネマティック・ユニバース”におけるアイアンマン(トニー・スターク)以来の人気キャラクターとなりそうなロキですが、そんな彼とアスガルドの仲間たちの冒険が読める日本語版アメコミといえば……

 
『マイティ・ソー:アスガルドの伝説』
スタン・リー[作]/ジャック・カービー[画]
定価:2600円+税
●小社より好評発売中●
というわけで、刊行からかなり時間が経っていますが、今回は『マイティ・ソー:アスガルドの伝説』をご紹介したいと思います。

まずは本書のいささか変わった成り立ちから。

もともとSF/ホラー雑誌だったマーベル・コミックスの『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』にソーが初めて登場したのが1962年。当初ソーはおもに現代の地球を舞台にさまざまな敵と戦っていたのですが、やがて翌年から雑誌の巻末に毎号5ページ、ソーの故郷である異世界アスガルドをテーマにした短編『アスガルドの伝説(Tales of Asgard)』が掲載されるようになりました。

最初は1話完結による、世界観やキャラクターの紹介だったのですが、次第に複数の号にまたがる壮大な物語へと発展していきました。連載は約4年間、雑誌の名前が『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』から『マイティ・ソー』に変わっても続きました(1967年にブラックボルトをはじめとする種族“インヒューマンズ”を扱った短編『インヒューマンズ伝説(Tales of the Inhumans)』へと変更)。

そして時代は流れて2009年、この連載をまとめた全6号の雑誌が刊行され(カバーは当時ライターのJ・M・ストラジンスキーと組んでソーを描いていたオリビエ・コイペルによる描きおろし)、その雑誌を1冊の単行本にまとめたのが『マイティ・ソー:アスガルドの伝説』なのです(ちなみに本書以前、1968年と1984年にも『アスガルドの伝説』から10話ほど選んでまとめた増刊が発売されています)。


続いて、本書の見どころについて……。

何よりもまず注目するべきは“黄金コンビ:スタン・リー&ジャック・カービー全盛期の作品!!”という点でしょう。すでに語り尽された話ではありますが、1961年に雑誌『ファンタスティック・フォー』を創刊して以来、このコンビはハルク、アイアンマン、X-MENと新感覚のスーパーヒーローを次々と考案し、マーベル・コミックスに現在まで続く繁栄をもたらしたのです。

そんな二人の日の出の勢いは、たった5ページの巻末連載にも感じられます。最初は単なる設定の補強として始まったのかもしれませんが、次第に弾みがつき、1話完結の単なる絵物語から壮大な冒険譚へと展開していく様子は、当時絶頂期にあった彼らの創作意欲を生々しく伝えてくれます。またジャック・カービー(インカーはおもにビンス・コレッタ)の描くアスガルドは神話とSFを自由に行き来し、彼の奔放な想像力にさらなる発展があることを暗示しているかのようです。やがてカービーは1970年にDCコミックスで『フォース・ワールド』を、1976年には出戻ったマーベル・コミックスで『エターナルズ』を生み出すのです。

また、コミック本編に加えて収録された特典の充実も、嬉しいところです。キャラクター解説アスガルドの地図といった設定資料が、『オフィシャル・ハンドブック・オブ・マーベル・ユニバース』『ジャーニー・イントゥ・ミステリー・アニュアル』といった雑誌から集められ、原書の単行本を年代順にまとめてリスト化し、さらにソーが初登場を飾った記念すべき1962年の『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』#83も収録! まさにマイティ・ソー関連資料の決定版といった趣があります。

現在のようにさまざまな海外コミックが毎月コンスタントに出版されるようになっても、興味の中心になるのはやはり現在進行形の作品であって、こうした“アーカイブ系”の作品はなかなか日本語版出版の機会に恵まれません。そんな中でもアメコミの歴史をひも解いてみたい、という研究熱心な読者のみなさんは、本書はもちろん、『グリーンランタン/グリーンアロー『ベスト・オブ・スパイダーマン』などもぜひどうぞ! スタン・リー、ジャック・カービーの偉大な功績についてもっと知りたい方は『スーパーゴッズ:アメリカン・コミックスの超神たち』を!




『マイティ・ソー:アスガルドの伝説』がアメリカで連載されていたのは、日本ではおおよそテレビアニメ版『鉄腕アトム』から『ウルトラマン』にかけての時代、マンガだと『8メン』『サイボーグ009』から『カムイ伝』『巨人の星』にかけての時代にあたります。そんな歴史を頭の片隅に入れ、彼我のコミック文化の違い思いを馳せながら本作を読んでみるのもまた一興かと。

それでは本日はこのへんで。


(文責:中沢俊介)

2014年2月10日月曜日

忘却の彼方にあるであろう『WE3 ウィースリー』をば

こんにちは!

先日、ツイッターでつぶやいていたのですが、隔週(ときに不定期)で更新しておりました「アメコミ魂」は、今週より毎週月曜日20時頃更新と、毎週更新してまいります。立ち上げ当初はしばらく編集部の佐藤学が担当していましたが、多忙につき(?)、途中から私の方が代筆と称し、しばらく担当していました。今後はアメコミ担当の3人(もう少し増えるかもしれませんが)で持ち回りで更新してまいります。各々が自由に好きなことを持ち回りで書いてまいりますので、統一感はなくなると思いますが、三者三様の角度から多くの作品を紹介できればと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。

■なぜいま『WE3 ウィースリー』なのか?

さて、今回は皆さまに忘れ去られてしまったであろう良作『WE3 ウィースリー』以下『WE3』)をご紹介しようと思います。「なぜ、いまさら『WE3』なの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。動機は単純と申しますか……些か不純であります(最終的には新刊の告知というオチです)
▲『WE3 ウィースリー』
グラント・モリソン[作]
フランク・クワイトリー[画]
堺三保[訳]
●市場在庫のみ(2016年現在)●
『WE3』は、DCコミックスの成人向けレーベル(ブランド)“バーティゴ”の作品で、作者はグラント・モリソン&フランク・クワイトリーです。そう、2月26日頃発売の『デイトリッパー』は“バーティゴ”レーベルの作品、同日発売の『バットマン&ロビン』はグラント・モリソン&フランク・クワイトリーが手掛けた作品……ということで、バーティゴ繋がり、著者繋がりと、ある意味新刊の宣伝も兼ねつつ、少し強引に『WE3』を紹介しようかなと……(『JLA:逆転世界』も同じ作家チームだろという声も聞こえそうですが、バーティゴではないので『WE3』を)。

■バーティゴとは?

日本語で「めまい」を意味するバーティゴ(VERTIGO)レーベルは、DCコミックスが有するレーベルの一つで、サスペンスやホラー、ファンタジー色の強い成人向けの作品を扱っています。成人向けといってもいわゆる18禁ではなく、内容が子供向けではないことを指しています。とはいえ、成人向けなので物語上不可欠な暴力描写や残酷な場面は当然あります。またキャラクターよりも作家性の強い作品が多く、『コンスタンティン』など映画化された作品も少なくありません。
▲『デイトリッパー』
『WE3』もバーティゴ作品ですので、銃弾と血飛沫が飛び交う暴力描写(少し言い過ぎでしょうか……)はありますが、あくまで物語上避けては通れない描写なので、それがメインの話ではないのでご安心ください。また同じくバーティゴ作品の2月26日頃発売『デイトリッパー』はそのような描写はほとんどなく、どちらかというとオルタナティブコミックに近いかと思いますが、『デイトリッパー』については別の担当が次回ご紹介いたします。

■モリソン&クワイトリーの強力タッグ

『WE3』を手掛けたライターのグラント・モリソンは、奇人、変人と言われることも多いのですが、アイズナー賞にも輝いた歴とした名ライターの一人です。小社作品では本作のほか『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』や『JLA:逆転世界』のほか、『バットマン・アンド・サン』をはじめとしたバットマンの新サーガなどがあります。また彼の奇人、変人ぶりは自伝的コミック史解説本『スーパーゴッズ アメリカン・コミックスの超神たち』で垣間見ることができると思いますので、気になる方はぜひご一読ください。
▲『バットマン&ロビン』
一方、モリソンと同じグラスゴー出身のアーティスト、フランク・クワイトリーはコミック本編のほか、華麗なカバーアートも多く手掛けています。モリソンとタッグを組むことも多く、本作や『JLA:逆転世界』のほか、『ニュー・X-MEN』『オールスター・スーパーマン』『フレックス・メンタロ』などがありますが、先にも述べたように2月26日頃発売『バットマン&ロビン』もモリソン&クワイトリーの作品の一つです。こちらも後日再び紹介することになると思いますので(前回の記事はこちら)、ここでは割愛いたします。

■『WE3』の魅力

さあ、バーティゴという成人向けレーベルで、モリソン&クワイトリー作品の『WE3』はどんな物語なのでしょうか? あらすじは下記のとおり。

米空軍最高機密研究施設では新たなサイボーグが開発されていた。それは、生体と金属とを組み合わせて設計された生物兵器で、“WE3”というコードネームをつけられたラブラドール犬、茶トラ猫、白ウサギの3体のプロトタイプだった。温かな家庭で飼われていたペットだったWE3には最新鋭の軍事用ハードウェアが組み込まれ、彼らは自律的でありながらも、忠実にして完璧に無慈悲な究極のスマート・ウェポンであった。だが、彼らが成功作だったとはいえ、所詮プロトタイプのため、テスト完了と共に解体されることになっていた。

しかし、本来の感覚を呼び戻したWE3は、廃棄処分を前に脱走を試み、恐怖と混乱に満ちた外の世界へと飛び出していった。執拗な追跡者達に対し、WE3は血みどろの戦いを挑むのだが……。


『WE3』は、一言でいうと、生物兵器に改造された挙句、廃棄処分にされそうになった三匹の動物の悲しい逃亡劇です。その三匹の動物がトラやクマのような猛獣ではなく、皆さんも触れ合ったことがある「イヌ、ネコ、ウサギ」という身近な動物たちなので、自然と感情移入してしまい……結末に涙してしまう……。複雑な物語を描くイメージのあるモリソンでしたが、本作の物語はとてもシンプルでストレート。余計なものを削ぎ落としたシンプルな物語だからこそ感動してしまいました。三匹にはそれぞれ飼い主がいたのですが、飼い主の話などは一切出てこない。各章の扉絵(原書出版当時のカバーアート)で「迷子を探すチラシ」が描かれているだけで、各家庭で愛されていたことを想像させる。これだけで充分なんですよね。彼らの背景を考えながら読んでいくと、グッときてしまいます。

また構成や描写も面白く、モリソン曰く実験的な作りになっています。アメコミっぽくないというと語弊がありますが、日本の漫画に読み慣れている我々にも読みやすいコミックになっています。また動物たちは片言ながら人間の言葉を話すのですが、「オウチ、カエル」「モドレ!」「ホイッ」などこの表現が読みすすめていくうちにホロッとさせる。堺三保さんに翻訳をお願いして本当によかったと思いました。

様々な危機、不条理や矛盾を潜り抜け、最後に彼らが向かうべきところはどこなのか……。気になる方はぜひ『WE3 ウィースリー』をご一読ください。日本では2012年に小社から刊行した作品ですので、書店さんに置いていない場合も多々あります。本書はいまある在庫がすべてですので、少しでも興味がある方はなるべく早めにご注文いただくことをおすすめいたします。

最後に、手塚先生の「W3(ワンダースリー)」や「ウェポン計画」との関係性、また『WE3』映画化の話はどこいった?など、さらに掘り下げることのできる『WE3』ですが、そのような話は機会があればその時に。

ではまた!


(文責:山本将隆)