2014年9月1日月曜日

訳者自薦『ホークアイ:マイライフ・アズ・ア・ウェポン』

みなさま、こんにちは!

『ホークアイ:マイライフ・アズ・ア・ウェポン』の翻訳を担当させていただいた中沢です。今回は、ただいま好評発売中の本書について、僭越ながらご紹介させていただきたいと思います。

『ホークアイ:マイライフ・アズ・ア・ウェポン』
マット・フラクション[作]
デイビッド・アジャ他[画]
定価:本体2,000円+税
●好評発売中!●

ホークアイ(クリント・バートン)といえば1960年代からの古参ヒーローで、なかなか単独オンゴーイング誌を持てないB級キャラとはいえ、マーベルファンにはおなじみの存在でした。そんな彼の知名度が一気に上がったきっかけは、やはり2012年の映画『アベンジャーズ』。そして、映画の公開とタイミングを合わせて創刊されたのが、このたび日本版が発売されたホークアイの新シリーズです。

新しい『ホークアイ』はたちまち高評価を獲得し、アイズナーハーベイといったコミック賞でライター、アーティスト、カバーアーティスト、カラリスト、新シリーズ、シングル・イシューといった各部門に軒並みノミネートされる人気シリーズになりました。批評的な面では、マーク・ウェイド/クリス・サムニー他による『デアデビル』(祝ドラマ化!)と並んで、“マーベル・ナウ!”と銘打ち心機一転を図っている現在のマーベル・コミックスを代表する作品ではないかなと思います(とはいえ、どちらもマーベル・ナウ!が始まる前に創刊したシリーズではありますが)

そんな話題作『ホークアイ』を手がけた作家陣はというと……。

ライターはマット・フラクションイメージ・コミックスから2006に発表したSFスパイアクション『カサノバ』(のちにマーベルに移籍)で高い評価を受けた彼は、その後マーベルでアイアンマンソーパニッシャー、そしてX-MENといったキャラクターのメイン雑誌を担当し、さらに2011イベント“フィアー・イットセルフ”でもメインライターを務めて、マーベル・ユニバースの一翼を担ってきました。その頃から機知に富んだ、スピード感のある物語作りに定評がありましたが2009『インビンシブル・アイアンマン』アイズナーを受賞)『ホークアイ』ではさらに進化した、語りの妙技を見せてくれます。
『デイトリッパー』
『カサノバ』の作画を担当した
ファビオ・ムーンと
ガブリエル・バーによるコミック。
定価:本体2,600円+税
●好評発売中●
アーティストはスペイン人デイビッド・アジャ。本作のパッと見たところの“ユニークさ”に貢献しているのは、何よりもこの人のアートではないかなと。フラクションが本格的にマーベル進出を果たした作品として名高い、2007『イモータル・アイアンフィスト』エド・ブルベイカーとの共作)以来のコンビです。その頃はマイケル・ラークのような、ノワールっぽい絵柄が得意な人なのかなと思わせましたが、腕に磨きがかかって、よりスタイリッシュな絵柄へと成長しています。そして、本作によってアイズナー賞ではベスト・ペンシイラー/インカー2013年)と、ベスト・カバーアーティスト2013年と2014年の2年連続!)受賞。この後の号でも、フラクションと組んでさらに先鋭的ながら楽しい実験を繰り広げています。

シリーズはフラクションとアジャのコンビ(とカラリストマット・ホリングスワースが中心になって進められ、そこに時折ゲスト的に他のアーティストが招かれます。本書の後半に収録されたエピソードを担当したのはハビエル・プリード
『ロビン:イヤーワン』
ハビエル・プリードが作画を担当。
定価:本体2,200+税
●好評発売中●
クールなスタイルのアジャとは対照的に、どちらかというとルーズな線ユーモラスな雰囲気を醸し出しています。マーベル・ナウ!系では他に『シーハルク』の作画を担当していて、こちらも弁護士事務所を開いた怪力ヒロインの日常を描く、楽しい作品です。

また、巻末にはフラクションが最初に“二人のホークアイ”を描いた、2008『ヤング・アベンジャーズ・プレゼンツ』第6号も収録されています。そちらの作画はアラン・デイビス! 『ミラクルマンやかつてのX-MEN系列作で知られる、大ベテランです。アジャやプリードとは画風が異なりますが、“いわゆるアメコミ風”の絵であるぶん逆に、フラクションの物語作りのうまさが浮かび上がる、好エピソードです。

本国では現在のところ19(と増刊1号)まで発売されていますが、本書以降もアパートの住人のキャラクターが掘り下げられたり、クリント・バートンを巡るマーベルの女性キャラがずらりとそろったり、かつて死闘を繰り広げたと再会したりと、まだまだ面白い展開が控えています。全身アディダスで固めたロシア人ギャングや、マダム・マスクとの因縁も続きます。そんな中に“ピザ犬”ラッキーの視点からストーリーを語りきった、クリス・ウェアを思わせる驚きのエピソード(この号でアイズナー賞獲得!)もあったり……。最近22号で完結予定と発表されましたが、確かに人気があるからといっていつまでも続けられるテンションのシリーズではないなと納得させられました。

マーベル・ユニバース本体の切り盛りはジョナサン・ヒックマンリック・リメンダーといった、同世代のイメージ・コミックス出身ライター(とブライアン・マイケル・ベンディスに任せて、ニューヨーク市ブルックリンを中心に“フラクションバース”とでも呼べる独自のユニバースを作り上げているこのシリーズ、アメコミ史に残るランになるのは確実です。本国でも完結間近、日本版も最後まで完走できるように、応援よろしくお願いします!


(文責:中沢俊介)