2013年10月29日火曜日

BATMANと音楽

こんにちは!

久々の記事配信になってしまい申し訳ございません。その分、今回はいつもとは趣向が違った興味深い内容をお届けしたいと思います。

古くから映画やドラマとして映像化され、世界中のファンに親しまれてきたバットマン。もちろん、それらの映像には音楽が欠かせません。そして、音楽の側面からバットマンを読み解いていくと、この世界最高峰のヒーローの新たな側面が見えてくるのでは……?

御寄稿いただいたのは、文化評論家であり、音楽ジャーナリストの川上英雄さん。川上さんはアメコミ研究家としての顔も持ち、多数のコレクションを持つディープなバットマンファンでもあります!
今回はあくまで入門編的な内容ですが、バットマンと音楽にまつわる重厚な物語の片鱗をご堪能ください!!
(※一部の写真の配置等に間違いがありましたため、修正いたしました)



BATMANと音楽 
――凛々しさ溢れるBATMUSICの世界、オリジナル・サウンド・トラックからRAP、DISCO
そしてポップス歌謡まで――


~~BA BA BA BA BATMAN~~と、お馴染みのフレーズで始まる、1966年にフジテレビ系列で放映された、アメリカABC-TV制作の人気テレビドラマ、『バットマン(BATMAN)』のテーマ音楽を読者諸氏はご記憶であろうか。

アダム・ウエスト、バート・ワード主演による同番組は、当時、全米で熱狂的なブームを巻き起こし、記録的な高視聴率を更新。ニール・ヘフティー作曲、巨匠ネルソン・リドル編曲、同楽団による凛々しさ溢れるサスペンス調の楽曲は、我が国でも当時のヒット・チャートを席巻したのだった。(写真①)
写真①
作曲者ニール・ヘフティーよりも著名で、ジャジーな演奏を得意とし、多くのオリジナル・サウンド・トラック(以下、OST)を手掛けていたネルソン・リドルは今日、アメリカン・ポップ・ミュージックの金字塔として、さまざまな功績を残しているが、60年代当時、フランク・シナトラ、ナット・キング・コール、ペギー・リー等、今や伝説の歌手として世界中で語り継がれるアーティストの編曲やレコーディングの指揮を一手に引き受けていた。OSTバージョンはフルートや女性コーラスがジャジーな雰囲気を醸し出しており、さすが貫禄充分な仕上がりぶりだ。また、TV番組の爆発的なヒットで、数多くのカバー曲が録音、発売されたが、ひときわイキのよい演奏をしているのが、「BATMAN THEME」としてシングル・カットされたニール・ヘフティー盤であろう。当時、発売元の日本ビクターからは、OST盤より先行してリリースされたが、エレキギターやハモンドオルガンが独特の音色を放ち、強烈なブラスが絡む、リズム&ブルース風のコンセプトは正に本命盤として人気を博した。
ほのかに漂う緊張感とサスペンス風の味わいは、アダム・ウエスト扮するクールで知的なヒーロー、ブルース・ウェインことバットマンとニューヨークをモデルにしたゴッサムシティの世界を如実に表現している。(写真②)
写真②
写真②の日本版
当時、ドーナッツ盤レコード、と言ってもケイタイ世代の若い読者諸氏にはおわかりいただけないかもしれないが、ビニールレコード盤全盛の音楽市場で、ザ・マーケッツやジャンとディーン、アル・カイオラ、ベンチャーズなどのバンドによる競作盤が多数録音・発売され、しのぎを削っていた。 (写真③)
写真③
特筆すべきは、劇中で、謎の男リドラーを演じたフランク・ゴーシンによるユニークな便乗盤まで登場したことだろう。そうした珍企画盤はマニアのなかでも、知る人ぞ知る存在で、アメリカ国内では高値で取引されていると聞く……。(写真④)
写真④
今日に至るまで、同楽曲は、ロック、シンセサイザー、R&B、ラップ、ディスコなど、様々な変貌を遂げているが、中でも1978年に日本のキングレコードが発売したスピニッジ・パワーによるディスコ盤(写真⑤)や東芝EMIが1989年にリリースしたアキハバラ・エレクトリック・サーカス盤、知る人ぞ知るシーナ&ロケッツ盤にフューチャリングされたり、時代を超えて愛され続けているのには驚かされる。

また、アメリカ本国やヨーロッパでは、黒人ラップによるカバー・バージョンやイタリア製ハイエナジー・カバーなど、インディペンディント系バンドによるリリースも相次ぎ、もはやバットマン音楽=ニール・ヘフティーの楽曲というイメージが定着していることを物語っている。
写真⑤
さて、バットマン音楽のジャンルの中で、2番目に高い認知度を誇っているのが、1989年にワーナーブラザースがティム・バートン監督、マイケル・キートン主演で映画化した『バットマン(BATMAN)』のロック界のカリスマ、プリンスによる一連のサウンド・トラックだろう。
当時の洋楽ポピュラー・シーンを凌駕したプリンスは、その音作りからファションまで、時代をリードする存在であった。そんなロック全盛の時代背景のなか、一世を風靡した「B A T DANCE」など、これまでとは異なるコンセプトは、映画の成功もさることながら、ロック・ミュージック愛好者まで取り込み、世界中に大きなインパクトを与えた。(写真⑥)
写真⑥
マイケル・キートン主演による2作目『バットマン リターンズ(BATMAN RETURNS)』を経て、ジョエル・シューマカー監督に変わり、バル・キルマー主演によってシリーズ3作目を迎えた『バットマン フォーエヴァー(BATMAN FOREVER)』では、世界的に著名なロック・バンドU2が主題歌を担当し、ファンを喜ばせたのも記憶に新しい……(写真⑦)。その後も、プレイボーイ風な容貌で当時のイケメン・スター、ジョージ・クルーニーとクリス・オドネルがタッグを組んだJ・シューマカー監督2作目の『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲(BATMAN & ROBIN)』では、R.KELLY等豪華な一流アーティストが、OSTからシングル・カットした楽曲をヒット・チャートに送り込んでいた。当時、すでにDCコミックスがタイム・ワーナー(ワーナー・ブラザース系列企業)グループであったことそして、世界各国に拠点を築き、音楽市場に多大な影響力を誇ったワーナーミュージックの全盛時代と合致したことも大きなファクターとして指摘することが出来るだろう。
写真⑦
ところで、近年『バットマン ビギンズ(BATMAN BIGINS)』『ダークナイト(DARKKNIGHT)』『ダークナイト ライジング(DARKNKNIGHT RISES)』の3部作が、クリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベイル主演により新たに映画化され、世界の興業史上稀に見ぬ成功を収めたが、配給会社もレジェンダリー・ピクチャーズ(REGENDARY PICTURES)となり、OSTにもさまざまな変化が現れたと筆者は感じて止まないのだが……(写真⑧)。
写真⑧
そもそも、これまでの勧善懲悪な活劇アクション(マイケル・キートン出演作品はやや異なるが?)から、ややシリアスな主人公ブルース・ウェインの心の葛藤や人間的な成長ぶりに趣がおかれたこともあって、音楽監督にハンス・ジマー等現代音楽の巨匠を配し、その重厚な音楽的コンセプトは単なるポップ・ミュージックのカテゴリーから、現代クラシック音楽のジャンルに到達したのではないかと思うほどだ……。
自らの悲しい体験をバネに、体力そして知力を駆使し、最強の敵と渡り合う孤高なヒーロー、バットマンことブルース・ウェインの生き様を、これら3作のOSTは、それぞれのストーリー展開上心憎い役割を果たしており、3つの作品の舞台となる、アメリカ国内のみならず、ブータンやインド、香港などで、青年から存在感あふれる一人の男へと進化して行く主人公の内面を繊細に描写する微妙な役割を担っている。
これまでの単なるアメコミ映画OSTの枠を超えた傑作、ある意味で音楽での「BATMAN伝説」の集大成――と位置付けることができるのではないだろうか。


文化評論家/音楽ジャーナリスト/アメコミ研究家
川上英雄




 
(編集担当:佐藤学)